再生研究会とは

What's Saiseikenkyukai

組織概要

Outline
 特定非営利活動法人京町家再生研究会は1992年(平成4)に設計者・職人などの技術者や研究者、京町家の居住者が中心となって発足しました。本部は京都市街地中心部にある表屋造りの大型町家にあります。
 発足当初より、伝統構法で建てられた木造住宅である京町家を現代にふさわしく再生し、次の時代に健全な美しい京町家として引き継いでいくために、実践的なプロジェクトを企画・運営してきました。
 京町家の実態調査、技術や制度に関する研究、行政や法制度に対する提言、若手の育成や企業研修などによる啓発、広報などの活動を展開しています。
 2002年(平成14)には会の位置づけを明確にして活動の強化を図り、市民活動を推進するためにNPO法人の認証を得ました。

『京町家とその再生』京町家通信創刊号の巻頭言

Our Philosophy
設立当時、京町家通信創刊号のはじめに故 堀江 悟郎先生のメッセージが掲載されています。私たちが活動に際して今も大切にしている考え方です。

町家とは何か。人々は自明のことと思っているかも知れないが、そのコンセプトは一人一人みな違うであろう。

京町家について言えば、街路に沿ってほぼ均等に分割された敷地に建て並べられた店舗付住宅が大部分であり、よく似た構造と様式とを持ちながらそれぞれの個性を生かして調和のある洗練された美を示す町並みを造り出した、ある時代に完成された建築または建築群を指すもの、というのがおおよその共通認識であろう。

これは平等と連帯と繁栄をめざした市民性の産物であって、封建的制約の下で時代と地域とに見事に適応した商業社会の具体例として貴重なものであった。

しかし今は自由競争の世の中となり、価値観は文化より経済が優先し市民性から平等と連帯が失われて、他人を押しのけることと個人権利の拡張要求とがこれに取って替わった。

つまりかつて町家を成立させた市民性は消滅して、古くも新しくも町家というものの本質はなくなってしまっているのである。

次に、再生ということについて考えてみよう。

一つは建築形式や技術という目に見えるもの、今一つは町家の存在を支える精神的基盤あるいは社会的環境といったものが対象となるだろう。いずれも「伝統」というキーワードが重きをなす。

伝統を守る、とはよく言われるけども伝統とは継承されるものである。

伝統というのは時間的経過の各時点における文化の歴史的集積を指しており、継承というのは過去に現在を加えて未来に残すことである。前代がそのまま次代に伝えられるのではなく、現代に適応する何物かが加えられ活性化されたものが次代に受けつがれることによって伝統は生き延びる。

したがって、いま伝統といわれているものに何を加えるべきかが、これを重んじ未来に伝えようとする際の第一の問題点となるのである。

時として伝統など考慮したこともない人々の活動が図らずも伝統に新たな遺産を加えることがありうるし、またあまりに伝統にこだわる余り期せずしてこれを死物化してしまう場合もあるだろう。

再生というのは、このような伝統の精髄を提示することとその正しい継承のあり方を教えるという意義をもつものと考えられる。それゆえ、これは現在社会への適応という問題の解決ぬきにはあり得ないし、それも人寄せや営業的効果をねらった形だけの保存などでないことは明らかである。

今さしあたって我々の当面する問題は、なお残存する個々の町家に対して迫りつつある変貌への圧力をどう受けとめどう解決すれば最善であるかという答えを探ることであろうと思う。

個々の場合の条件はことごとく異なっており、共通の答えなどはあり得ないが、その考え方には一本の筋が通っていないと、解答は信条によらず心情による場当りのものとなってしまい、結局次代に何の価値も残すことができない。

現在、世界的に経済性追求の減速が見られ、競争よりも共存の理念が求められている。数多くの地域における血まみれの民族紛争も共存に到る困難な道程の苦闘のあらわれであるとも言える。この時にあって市民性における平等と連帯の復活が期待できないだろうか。

また、地球規模の環境保護運動のスローガンの一つに「持続可能性」というのがある。我々人間の居住環境である都市においても持続可能性が求められるようになるだろう。そしてそれは共存の市民性が復帰することによって達せられる。

京都を訪れる人々が、古都のたたずまいの中に自己のアイデンティティのルーツを見出すのは当然であるけれども、このたたずまいが単なる形骸と化してはなんの価値もない。現代への適応という変貌をなしつつ横溢する活力を持続する中で、人々が現在の日本人としてのアイデンティティを確かめうるような、市民共存の理念による独自の都市環境を造り出したとき、それが新しい形式をもつか伝統の継承を重視するかにかかわらず、本質的な町家の再生が達成されたというべきであろう。


京都大学建築学教室元教授
京都建築専門学校元校長
堀江 悟郎

活動のあゆみ

History

設立主旨(設立時会長 望月秀祐氏)

The aim of establishment

 千年の古都・京都は、各時代ごとに公家・社寺・町衆の美意識が融合して優れた文化を形づくってきました。なかでも、まちの根底を支えてきたのは、伝統産業を中心として商いをしてきた町衆の力であります。そこには商いと住まいが見事に調和した町家(まちや)があり、町衆が結束した町家町(まちやちょう)がありました。

 しかし、戦後の京都は、他の大都市と競うように、旧洛中の近代化を押し進めた結果、戦災を免れた貴重な伝統的町家が軒並みに壊され、京都らしさを象徴する町家町が無惨な姿を呈するに至りました。

 このように、いま、京都のまちは、まちづくりの重大な転換期に立っています。京都のまちが京都らしさを失うことは古都消滅につながります。市も市民も本気になって「まちづくり」の見直しを考えるようになりました。

 私たち京都の建築にたずさわる有志は、この京都の無惨な現状を憂え、急ぎ相寄り、意見を交わしました。その結果、京都を特色あるまちとして残していくためには、まちの近代化と京町家の再生、そして両者の共生が絶対必要であるとの結論に達しました。

 去る7月17日(平成4年)、私たちは鉾町の一角で「京町家再生研究会」を発足させ、京町家を保存し、修復し、または近代町家化すること—京町家再生—の担い手となることを決意しました。そしてこの会は、単に調査研究にとどまらず、実地に実践することをも目的としています。

  京町家は市民すべての大切な財産であります。市民のご理解とご協力がなければ、「京町家再生」はできません。また、行政の強力なテコ入れも不可欠です。加えて、地元企業はじめ全国企業からの社会還元事業としてのご支援なしには、確かな進展は望めません。

 私たちは市と市民の中へ入って仕事をしていきたいと考えます。ここに市民並びに企業各位の、絶大なるご支援をお願い申し上げるものでございます。

受賞歴

Awards